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2019年12月

旅先にて

 大分県日出町別府湾の側のホテル泊。部屋から見える静かな海を楽しんだままカーテンを閉め忘れて眠ってしまった。ふと目が覚めると朝日が水平線から顔を出し一筋のオレンジ色の光となって海上に一本の道のように差し始めたところ。朝の弱い私なのに窓に張り付いて刻々と変わる日の出と海を見ていると、海の上に小さな魚船。まだ6時前の暗い時間から漁に出て何が釣れるのか?と眺めていたらみるみる明るくなる海上に黒い点々が船を囲んでいる。目を凝らして網につけてある浮きかと思っていると、その沢山の黒い点々が船の右や左、アチコチに散らばり一つがフッと飛び上がった鳥!そのうち他にも数隻船が出てきたのにその鳥の点々は初めの船の周りから離れない。餌が撒かれているのか、プランクトンなどがいる場所なのか?それとも漁師さんが個人的に好かれているのか。朝日の昇る静かな湾の中で、海鳥に取り囲まれて魚を釣っているのはさぞ気持ちいいだろうな。

 そして朝ごはんの会場に行くと窓のすぐ外の小さな林の一本の木にたくさんの鳥が群がって朝食中。これはヒヨドリかムクドリ。突然枝先で争いが発生!しかしまだまだ木の実はいっぱいなのでちょっと跳びのきまた食べ始め、こちらのレストランも10羽以上のお客。仲良く食べている鳥もいれば、隣にチョッカイ出しているのもいる。きっと賑やかに口喧嘩もしているに違いない。生存競争だからね。

 大分に来たら郷土料理を食べなきゃと張り切ってのバイキング朝食会場で、食事の終わりに食べようと横目で見ていた「やせうま」。平たい麺に香ばしいきな粉をまぶしたもの。のんびり鳥達のご飯の奪い合いを見ている場合ではない!次の時間が。慌てて「やせうま」のところに行ったら、前の人がこれでもかというくらい全てお皿に入れようとしてて、思わず「アッ!」と後ろから声をあげてしまった。振り向いた人がニッコリ笑って「半分こしましょう」と。美味しかった~。

 のんびり海に揺られながら食べ物を待つのも、ちょっと争いながらみんなで木ノ実を食べるのも、知らない同士分け合って食べるのもみんな生きるため。生き物が全て豊かに暮らせた一年だっただろうか?良いお年を。

横山眞佐子

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