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2018年02月

出来る!

 運動が苦手。幼稚園の時からヒョロヒョロと背だけは高かったので、並んで行進の時は一番前。運動会の先頭なのに、どうしても右手と右足が一緒に出てしまう。何度も注意されると緊張してますます訳が分からなくなり、あまりのギクシャクに、当日母が赤面したそうだ。ボールがこちら向きにくるのも怖い。走るのも変。マットも鉄棒も跳び箱も苦手。チョット出来たのは障害物競技と木登り。児童精神科医の佐々木正美さんが「子どもをそだてるときに、もっとも大切なことは、子どもの心の内に、生きていくために必要な「根拠のない自信」をたっぷりと作ってあげること」と書いておられ、はたと気がついた。

 物心ついた時、私は庭のモミジの木に登っていた。サルスベリの木に登っていた。大きな楠に登った。屋根の上にも登った。最初にモミジの木の上に乗せてくれたのは父。自分で登ったのではないけど、ものすごく得意で嬉しかった。それからは「高いところは得意」という根拠のない自信で今に至る。まだ落ちた事はない。

 小学校の運動会ではいつもビリ。走っている顔を見るのが不憫と母から言われてから、ますます走るのが苦手になった。ところが6年生の障害物競走でなぜかトップ。脱脂粉乳の入っていたドラム缶を通り抜けるのに人より背が高かったのが幸いしたのか?一等になり迎えられた母から「まさこは障害物が得意なんだね」の一言で今でも得意と思い込んでいる。

 生きていて、仕事をしていて、何だかんだと困った事があると「根拠のない自信」で「私、障害が得意だから」「ブタも木に登るのよ」と思い込んでいるのかもしれない。

 「根拠のある自信」は言ってみれば他の人と比較した時によく出来たという自信。誰かより優れている、競争で一等になる。勉強で一番になるといった他と比べる事が出来るということで、スポーツや学校の勉強ではそれがつきまとう。そんな時期も来るけれど、それを乗り越えるためには、乳幼児から幼児期に周囲の大人から無条件に受容されることかも。

 連日の平昌オリンピック一色のテレビ、新聞にチョットうんざりしつつ、真剣でしかし終わった後の清々しい選手のインタビューに、幼い頃からきっと自分を信じる「根拠のない自信」を持っていたのではないかと思うのだが。

横山眞佐子

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