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2022年09月

におい

朝、目を覚ますといい匂い!草の香りを感じながら起き、昨日、暑い中草刈りをした自分へのご褒美だな〜と、ちょっぴり嬉しくなった。何年も前に庭の片隅に植えたミントが年々生え広がり、今では庭の半分くらいを占拠している。ところがそんなミントを制して、春先はドクダミ、フキ、蓬と変化してちょっとの隙間にシダが葉を広げる。知らないうちにススキまでが!これでは庭というより野原。だから仕方なく私は古い草刈り機でとりあえず薙ぎ倒す。優雅とは程遠い暮らし方だけど、やっぱりその度に違うこの緑の匂いが好き。

生きている限り様々な匂いとは離れられない。好きな匂いも嫌いな匂いもあるけれど、なかなか具体的に匂いを表現することは難しい。ある学校に行った時、「うちの学校には持ち主の見つからない忘れ物とか無いのですよ。探偵がいるから」と言われて驚いた。なんと、使いかけの鉛筆も洗ったばかりのハンカチも、クンクンしたらすぐに誰の持ち物かわかる少年がいるとのこと。人それぞれ違うのは見た目だけでなく、匂いも違っていて、確かにどんなに消臭剤を使おうが、私には私の匂いがあるのです。その少年の繊細な嗅覚にびっくりです。

赤ちゃんがお母さんやお父さんに抱っこされると安心するのは、抱っこの仕方とかだけではなく、その匂いに包まれるからかもしれない。新生児もお母さんと別の人の匂いを区別する事ができるらしいとある研究者が書いていましたが、赤ちゃんが成長していく過程で、安心か危険かを匂いで確認をしながら選択できているのかもしれません。そして経験が増えるとこれがなんの匂いか想像できるようになってくるのでしょう。

私は小学校でブックトークする時に「おばけのアッチ」という幼年童話の主人公の人形を連れて行っています。アッチは特別なバックを下げていて、子ども達はその中身に興味津々。そこで私が「中にはお菓子の材料が入ってるんだけど、何を作ったらいいと思う?」とクンクンさせると、口々に「クッキー」「ケーキ」「マカロン」と声が上がります。甘い匂いなのですが、それぞれの経験から想像に合致するものが違うのです。タネを明かすと、それは「カツラ」という木の枯葉です。

今、世界はいい匂いだけではありません。戦争や紛争のきな臭さや、人を騙す不正の臭いも。自分の鼻と心をを全開にして、息を吸ってー!

横山眞佐子

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