エッセイを読む

2018年12月

踏み出す

 あっという間に12月も終わるではないか!この拙い原稿も何日もアレコレ浮かんでは消え、色々と言い訳を考えパソコンを開けたり閉めたり。一文が書き出せなかった。

 お風呂で暖まったらいいだろうな、とわかっているのに椅子から立ち上がれない。

 どちらも踏み出し、そこに入ればホッとすることがわかっている。わかっているけどグズグズする。逡巡し、逃げ腰になる。「りゆうがあります」(ヨシタケシンスケ文・絵PHP研究所)の子どものように言い訳ならいっぱい思いつく。人は踏み出す前のグズグズを尊重しないとね!

 先日、小学校の選書会でブックトークの間は静かだったのに、立ち上がって本を選ぼうと一斉にみんなが動きはじめた時、一人の男の子が走り出した。するとそばにいた先生がその子をヒョイと抱え上げまるで小さい子どもを抱っこするように胸に抱え込んだ。4年生くらいの男の子はもう大きい。暴れている子をそれでも大事そうに抱える先生。そこには逃げないようにということではなく、大丈夫という優しさと力強さがあった。体育館の隅で、みんなから隠すように抱いたままでしゃがみこむ。しばらくしたら、ほどけるように先生の腕から出てきた少年は遠巻きながらみんなのほうに歩いていった。

 何かに踏み出す時の誰でも持っているためらいや不安、面白いとかワクワクするとかの前向きの気持ちだけではなく、チョッピリ後ずさりしたくなることがある。この少年はそれが他の人より大きい。周りの変化を受け入れるのに心がついていかない。先生は抱きしめる、という事でその子自身の一歩を待たれたのだろう。素敵な先生に出会えた。

 する事なす事すべてが初めての体験を重ねながら成長していく子ども時代。誰もが簡単には乗り越えていないのだと思う。ノロノロ、オロオロの時もあれば突っ走っている時もある。大人になっても然り。言い訳はいいから早く原稿を!と思っている矢先、沖縄辺野古の埋め立てが強引に行われた。「一番は普天間の安全」と迷いなく言うが本当かな?沖縄の人たちが、どんなに悩み逡巡し、1日1日を生きてきたか考えているのか?迷いや後戻り、やらない決断だって必要だと思うのだが。

 良いお年を!

横山眞佐子

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