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2022年05月

喧嘩と戦争

「こどもの広場」の玄関も花壇の薔薇アンジェラが満開になり、隣の紫陽花も次は自分の出番だと待ち構えてます。でもそのままドアを入らないで右のガラス越しの写真を見てください!男の子二人がすごい喧嘩をしています。一人は相手の両頬を力一杯掴み、掴まれた方は相手の腕を力一杯つねっています。どちらも相当痛そうで今にも泣きそう!この写真に気づいた子どもはびっくりして、マジマジと見つめていました。きっと今どき、小さなうちにこんな喧嘩をすることはないのかもしれません。そうなる前に、大人が止めてしまう。人を叩いてはダメ。喧嘩はしてはダメ。仲良くしないとダメ。それで私たちは争わず幸せになったのでしょうか? 内側にこもったモヤモヤはイジメという陰湿な方向に向かったような気がしますが。

知人の家で兄弟喧嘩が始まりました。口喧嘩が次第にエスカレートし弟が兄ちゃんの肩をこづき、兄ちゃんはカッとなって弟を突き飛ばしました。まずい!すると両親がどんどんあたりを片付け始めました。机もコップも。棚の上の飾りのお皿、危なそうな物を次々と。その頃には喧嘩はどんどんエスカレート。二人は座布団を投げ合い、掴み合いくんずほぐれつ。私たちは広々とした部屋の廊下からそれを眺めていましたが、突然お父さんが静かに言いました。「二人ともそろそろやめてもいいんじゃないかな?アイスクリーム食べようよ」。どうなったでしょう?もう一度みんなで机をだし、座布団を並べてアイスクリームを食べました。食べ終わる頃に「で、原因は?」静かなお父さんの問いに二人は「??はー〜??なんだったっけ?」と顔を見合わせたあげく「俺痛かった。お前も?」と笑いあってお終い。大人になった今も仲のいい兄弟です。

子ども時代に自分の痛みと同時に相手の痛みも経験し、さらに大事に至らないようそれを見守る大人がそばにいる。写真の子どもも先生が見ている前での喧嘩です。その痛みを知っているからこそ大人になっても暴力にノーと言える。大人として小さなつまずきを重ねながら成長して行く子どもの傍にいたいとおもうのです。しかし残念な事にそんな個人の尊厳は戦争が始まると通用しなくなります。無力な自分が情けないのです。

 

横山眞佐子

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