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2023年09月

美味しい物

秋の気配が漂い始めた9月初旬、山口から津和野へいく途中。両側にはもう稲刈りが終わっている所、まだ緑の濃い所とさまざまな田んぼが目につく。その中を小型の車が走っている。コンバインといって、田んぼから稲を刈り取り脱穀までしてくれるらしい。

らしい・・というのは、お米どころか畑仕事もしたことのない私が、何故か農学部に入った頃、教授に指示されてみんなで鎌を持ち稲刈りしていたから。私の稲との初対面。これを束にし、「はざかけ」という方法で天日干しをして 1 週間。それから脱穀、籾すり、精米。やってみて初めてわかる有り難さだった。当たり前にお金を出せばなんでも買えると思っていたけれど、一粒のお米を口に入れるまでこんなに大変な作業!しかし今はあの小さな車がゆっくり田んぼを走りながら脱穀までしてくれる。50 年前の農業とは大違いの現代。

田んぼの片隅に黄金色の小山がありその下から煙が出ている。籾を燃やし、次の田んぼの肥料にするのだ。農業をする方達は、新しい機械を取り入れながらも生き物との兼ね合いを、常に現在進行形で模索中なのだろう。そしてより美味しい物を作ろうと。

そんなことに思いを馳せながらあたりの景色を楽しんでいる時、ふと見ると歩車分離の縁石の脇から生え放題に茂っていた雑草がみんな枯れている。除草剤散布か!枯れている植物は歩道脇の斜面にも広がっていて、そのすぐ下にはお米が穂を垂れている。先日から新聞にも取り上げられている、ビッグモーターの街路樹伐採や除草剤散布の事件を思い出してしまった。

人間の住みやすいように、あるいは人間中心の美意識が先行して、安直に排除の方向に行く。その結果、それぞれの種が譲りあったり勝ち取ったりして、その土地の植生が出来上がっていたものが掘り返されコンクリートが流しこまれ、大きな建物が立ち、車が走り、あっという間に変化してしまった。でも、地中に残った小さな根っこ、そばを歩いている猫のお腹にくっついたり綿毛で遠くまで飛んでいったタネ、皆んな生き残るために必死の工夫がある。

人間の方が弱い。だから強力な除草剤や殺虫剤のかけられた作物は食べない方がいい。
「共に生きる」。植物も人間もバッタもね。

横山眞佐子

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