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2022年06月

信頼

 保育園の砂場で遊んでいる男の子と目が合いました。私は犬の散歩で柵の外を引っ張られながら歩いていましたが、つい黙って笑い顔だけで行き過ぎようとしたら「こんにちは」と立ち上がった男の子から、しっかり心を込めて挨拶されてしまいました。ドギマギする私。慌てて「こんにちは。犬のお散歩しているの」と言いながら、私の中に「小さい子どもだから」という上から目線のまま通り過ぎようとする心がなかったか?あるいは知らないおばさん(おばあさん?)から声をかけられたら怖がるかも、、などという変な安全教育的な考えはなかったか?

 「挨拶は立ち止まって相手の目を見てきちんと」なんて子どもには教えていながら肝心の大人は?そういえば、すれ違う散歩中の人に「おはようございます」なんて挨拶しても、半分くらいは無視されるなあ。
いつの頃からか、人間不信の風潮が広がってきたような気がします。確かに子どもが危険に晒される恐ろしい事件が起きました。今現在も「子どもを誘拐する」という不審な予告メールが全国各地の自治体に送られてきたりして親はもちろん先生や周辺の人たちは心配と対応に追われています。子どもたちだって怖いはずです。

 しかし、本来持っている人間と人間の関係を断ち切らず、まずは身近な大人が信頼してもらえるように心しなければなりませんね。

 ある友人はほとんど毎朝、毎夕、家の近くの通学路に立って子どもたちに「おはよう」の声をかけ続けています。子どもたちからは「おっちゃん」と呼ばれ信頼され、高学年のお兄ちゃんに先導されながら頼りなげだった一年生があっという間に堂々と登校する様を、親の目ではなく他者であるからこそ大きく受け止め観察して見守っています。

 殆どの大人は、自分も歩いてきた子どもから大人への道の記憶を持ちながら、子どもを暖かく、長いスパンで見ていられるはずなのです。

 けれど、近頃はそうもいかなくなりました。ちょっとしたことで苦情が来ます。許容範囲が狭くなりました。長い目なんて言っていられません。〇〇ハラスメントと付けられた言葉が行き交います。

 一番大切な親子が信頼しあい、周りの人と繋がり支えあって今を生きている姿を子どもたちに見せたいものです。誰にも大切な一回きりの人生。

横山眞佐子

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