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2022年10月

この一言

はるかにむかしの大学時代。実験室で先生から言われた。「試験管を洗う時、水を流した内側が綺麗になっていないといけないよ。」当たり前なんだけど、しげしげと試験官を見ると水がムラになっているところがある。これが汚れなんだと、ものすごく納得。以来、ガラス物を洗う時にはこの確認をしないではいられない。

ある時、ふと誰かに言われた事が、自分の中で大切な指針になっていると感じる事が多くなってきた。自分が今している事は、誰かにある時言われた一言がきっかけになっていることに。

これももう35年くらい前になるけれど、本州の端っこの下関に、色々な考えを持って活躍している方達に来てもらい、皆んなで話が聞きたいと計画したシンポジウムで、加藤周一さんが話された事。まだまだ男性優位の社会の中で右往左往しながらも、子ども、家族で参加した女性達が多い中、「社会の中心にいるよりは、周辺、外野にいる方が本当のことがよく見えるって事もある。女性と子どもが、実は一番根本的な事を知っている。今までそんな場所で爽やかに生きてきていたんだなと僕は思う。周辺こそが社会を変える一番大切な場所だね。」

中心ではなく周辺。いつも自分が一番先頭でいなくてはならないプレッシャーや、まだまだ男性社会だった当時の女性たちの頑張りを、既存の社会通念ではなく、今で良いのだと大きな視点から肯定された言葉に、周りで笑ったり話したり楽しみながら生きていていいのだと思えた。あの時から今まで加藤周一さんの「周辺」と言う言葉が私の大切な軸になっている。

そしてもう一つ。皆さんもついついやってみたくなることをお勧め。本を手にした時カバーをはずしてみるということ。絵本は大体カバーと表紙が同じですが、読み物はちょっと違ってカラフルなカバーを外すと、シンプルな表紙が現れたりする。図書館ではカバーごとブックコートで包まれているけれど、本の楽しみは読むだけではなくデザインや手触りまで、匂いだって違う!これは子ども時代父から教えられ、今では私の癖に!

皆さんは誰からどんな一言を?

横山眞佐子

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