エッセイを読む

2017年04月

92歳 母のこと

 生まれて数ヶ月の赤ちゃんに本を手渡すブックスタート。イギリスで始まり、2000年からは日本でも。赤ちゃんの検診に合わせて、保護者と赤ちゃんに絵本を介して気持ちが触れ合えることを伝える。生後まもない赤ちゃんが話している人の口元をじっと見つめ、次に目を見る。お母さんを振り返る。絵本を見つめる。何もわからないと思っていた赤ちゃんがわかろうとするように見る。「いぬわんわんわん」絵本を見せて読んでいたら、しばらくすると本物の犬を見て「わんわん」と言いだす。言葉の獲得は、物とその意味とが一緒になって子どもの内側に積み上げられて行く。聞く、見る、喋る、読む、想像する。成長ってこんな風に前向きに変化する。
 ティッシュペーパーを手に「はかなきゃね」という母。「ハッ??」「いやいや、それは鼻をかむもの!」と言ってから更に「ハッ!!」と気づく。「ハナヲカム」と「ハカナキャ」、何だか似てるような。「お布団に入ろうね」という私に「そうだね、お風呂に入ろう」といって寝てしまうのですよ。大切なのは言葉の意味ではなく音の繋がり、ひびき、リズム。だから意味からはどんどん離れていっても言葉に込められた気持ちには近づいていく、こちらが余りに可笑しくてヘェ?となっている時にはトンチンカンな事を言いながらも上機嫌なんだけど、ちょっとムッとしてイライラした口調で「ねるよ!!」なんて言うと、無表情で横を向いてしまう。
 言葉はなんのためにできたのか。考える。
 トイレの壁のもう定位置になっている「のはらうたカレンダー」。詩人の工藤直子さんの詩に山口在住の画家保手浜孝さんの版画付きで、4月は「おたまじゃくしわたる」の詩。介護にトイレはなかなか難題だけど、立ち上がった時この詩を一緒に読むと「ハッハッハッ・・」愉快に笑う。意味なんか要らない。元気でアッケラカンとして春が来た?と、皆んなで尻尾を振っているオタマジャクシの歓びが伝わるみたい。ウキウキして、しくじった事なんかお互い忘れる。谷川俊太郎さんの新しい絵本「えじえじえじじえ」も意味のない不思議な言葉とリズムで、広場スタッフがそれぞれ読むと三者三様のスピード、抑揚、リズム。何もかもが違い、音に個性が滲み出て、性格までわかりそう。意味ばかりにとらわれないように気をつけようっと!
 「あ?、靴は履いて!並べるんじゃ無くて??」

横山眞佐子

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