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2020年12月

三億と一兆

1968年12月10日、私は大学生。立川市の中学校で教育実習のため、下宿を出て学校に着いた。挨拶に行った職員室では「三億円事件」での話題でもちっきりになっていた。府中刑務所のすぐ側で起きた事件で府中市と立川市は目と鼻の先。単なる好奇心だがドキドキした。そして年が明けての4月、住んでいた小金井市の下宿近くの団地の中で逃走車両とジュラルミンケースが見つかった。こんな身近に新聞沙汰になるような大事件が起きるなんて驚いた。

その頃の学生は貧しかった。宮崎から上京してきていた同級生は体育の授業中倒れてしまい「ヤッパリ毎日モヤシだけじゃダメか!」と呟く。奨学金の三千円で生きていく。そんな中三億円とは私たちには想像もつかない金額だった。すでにあれから50年以上経ってしまい、今ではそんな事件の事を知っている人も少なくなった。あのお金どうなったのか?
経済というものはお金がグルグル回ってこそのものなのだろうが、そのグルグルが有効に私たち一人一人を通過して、生活できていればいいのだけれど。

2020年は新型コロナに始まり終わろうとしている。年末年始もすぐ。遠くに行っている子供たちが故郷で両親と過ごしたいとか、どこかに旅に行きゆっくり一年の疲れを癒したいとかいう、昨年までの過ごし方はまるで様相が変わってしまった。そんな中政府が言い出した「GoToトラベル」や「イート」はみんなにちょっとしたプレゼントだったかもしれない。が、しかし、事業費1兆6794億円という予算を盛り込み大宣伝したけれど、感染は止まらず一時停止に。
数字をよく見ると想像もつかない金額がいとも容易く決められているように思えるのは私だけ?多分大部分の人たちは今の苦難を乗り越えようと懸命に考え働き日々を過ごしているはずで、旅行に行ったり外食したりできる人ばかりではない。一兆円以上のお金がグルグル回って本当に必要な人の所に来ればいいのだが。

不安や悩みを乗り越えて笑いあえる新しい年を迎えたい。お元気で!

横山 まさこ

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