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2023年10月

野生の味

近くに、自宅の庭で収穫した「なりモノ」を持ち寄って販売する道の駅的な所があります。時間があるとつい足を向けてしまう。スーパーも便利だけど、不揃いでさっきまで木になっていたに違いない柚子やミカンと並んで、時々珍しいものがあるのが魅力です。今日の即買いは、「ポポー」「イチジク」「柿」。車に戻るとすぐに味見せずにはいられません。小さくて赤紫に熟れたイチジク。食べると甘い!とんがった柿も手のひらに収まるほど小さいけど、皮ごとカリッ!甘い!

子ども時代、毎週のように日曜日は祖父の家に行き、従兄弟と裏のイチジクの木に登り、もいでは食べているうちに茎から出た白いアクがくちびるのはしに付き、痛くて泣いた。以来イチジクは皮ごとかぶりつく前に、なり口を取るのが私流。柿はそんな心配なしにガリッ!しかし、しまったと後悔したことが何度もある。山の中の柿、家の外に落ちていた柿、渋柿か甘柿かわからぬまま齧って口の中に渋がついてしまった。

自宅に種を蒔いてイチジクや柿が実るのを何年も待つ。丁寧に世話をされた果樹園の物に比べ野生に近くならないと生き残れない。葉を広げ、太陽をあび、雨風に晒され、大地に根を張り吸い上げる養分を探す。今年の夏は暑かった!やっと秋。植物はちゃんと季節の変化を悟り実に糖分を蓄える。で、私は「ありがとう」と言いながらお裾分けをもらい、種をポイと庭に投げる。

生まれた時から住んでいる家。周囲は色々変わっているけれど、通っていた小学校も中学校もいまだに健在。今年は天候も不順だけど、あの頃だって下関も冬には雪だるまが作れるほどに雪が降り、坂道のてっぺんに住む私達は学校に行くのに二つ割りにした竹を足の裏に結び、バランスをとりながら滑り降りたりした。赤土の校庭には霜柱が立ち、ザクザク踏み砕く競争をしたり、靴がびしょ濡れになって裸足で帰った事も。

子ども時代は自然の中で生き抜くのが当たり前だったなあーと思うと、もし今水道が止まったら?電気が切れたら?スーパーマーケットも閉店したら?どんなに大混乱になるだろうと心配になります。現に災害は起きているし、海外からの輸入が止まる事があるかも!?本気で未来について考える時がきているかもしれません。

自然と共に生きていく力を子ども達にちょっぴりでも伝えたいと思い、拾った山栗を食べて見せたら、「えぇ〜っ!」と不審がられましたが。

横山まさこ

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