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2018年04月

本と作者

 作家の角野栄子さんが国際アンデルセン賞を受賞。なんだか身内のように嬉しい気持ちです。というのも、角野さんとは30年以上ものお付き合いで、なんども下関を訪れて「第二の故郷」などと本に書いてくださったりしているのです。本州の端っこ下関市は関門海峡を挟んですぐに九州の門司港が見えます。海峡は潮の流れが速く、落っこちたら大変と言われていますが、どんな日でも眺めは最高!そして、海峡に小さな島。巌流島です。角野さんはお父さんから幼い頃武蔵と小次郎の話を聞いていて大好きだったと!しかし実物の島にビックリ!そんなこんなで下関ファンに。
 受賞の時の記者会見でも「深川の生まれで江戸っ子。歌舞伎や講談、無声映画が好きな下町生まれの父にいろんな話をジェスチャー付きでしてもらった。そういう言葉が体の中に入っていて、自然にでてきちゃうんじゃないか」とはなしておられ、作品の中に自分の子供時代の幸せだったこと、悲しかったことを隠し味みたいにこっそり入れてあるから、創作とはいえリアリティーがあるのですね。
 同じアンデルセン賞を1968年に受賞したトーベ・ヤンソン。ムーミンのお話で有名なフィンランドの作家ですが、彼女も作品の底に著名な彫刻家であると同時に夜中でも家族を起こして、火事場に走って行ったり、高潮が来るというと、見に出かけたりする「冒険」を象徴する父親と、対照的に「信頼」を象徴するような愛と理解を示してくれる母親の元で育ち、のちにあのエプロンにバッグを持ってムーミンや家族を愛し続けるムーミンママやふらりとどこかに行ってしまうムーミンパパ、そして好奇心と冒険心と自由な行動のムーミンと、トーベさん自身の中にある子どもを作品化したのではないかと思いました。
 子ども時代は自身にはどうしようもない。育っていく間の人との関わりがひょっとしたら大人になってからの自分を何者かにしてくれる。現代の貧困、育児放棄、虐待、それだけではなくスマホも、ゲームもなにもかもが、その人を作る培養土になって行く。その中に重さや、手触り、ページをめくる喜びのある本物の本も加えて欲しい。読めば必ず美味しい栄養が詰まっているはず。

横山眞佐子

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