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2023年04月

虫が可愛い

「殺虫剤」という言葉が嫌い。「殺人剤」だと恐ろしいのに、虫なら平気で殺していいと思う人間の気持ちが私にもあるのだと思うとちょっとドキッとします。今朝も晴れた空を見上げながら窓を全開にした途端にハエ!いや違った!この小さいのはハナアブです。ミツバチもブーン。うっかり者たちは、入った途端に戸惑ったように慌てて飛び回った後に窓の向こうの景色が見えて、窓ガラスにぶつかっているのです。私はそのおとぼけの虫をそっと手の中に包んで外へ。ありがとうもなく空の方に飛んでいくミツバチくんたち。

今の子どもたち、虫などの生き物や植物が身近にいなくなって、興味がなくなっていないだろうね? 図鑑や本での知識はどっさりあるけれど、傍に来られるのも嫌だし、ましてや触るのなんてとんでもない!?

家も木造、隙間だらけ、外に出れば雑草がいっぱいの時代に育った私たち世代はちょっと郊外に出ればフキもヨモギもセリもいくらでもどうぞでした。関門海峡で釣った小さいけれど活きのいい魚を頂いたりして、自然の恵みを直接受け取って幸せでした。

そんな中、テレビではロシアとウクライナの戦闘の様子が流れてきました。多くの兵器が使われ、人々は家を失い、公共の映像ではあまり流れませんが命を落とした人たちも大勢いるはずです。ずらりと並んだ戦車から飛んでいく弾丸を見て考えました。これらを作り、この地に運び、他者の命を奪うために放つ時、ひとりの人間としての兵士はどんな事を感じているのだろうか?もし私だったら?

1960年代から1975年まで続いたベトナム戦争の実写場面を思い出しました。世界中の国々が自分の得になる方を支援する。そんな中「枯葉剤」というものが撒かれ、畑の作物を枯らして食料難にしようという作戦もたてられました。あたり一面枯れ果てた土地が広がり、戦争が終結した後にはもっと恐ろしいことが起こったのです。地上を覆った薬剤は猛毒のダイオキシンを含み、それを浴びた親から奇形児が産まれるという後遺症に現在も苦しめられています。「殺人剤」。虫一匹殺せないはずの人間は一歩間違えると殺人者になる。手の中のミツバチは、もし私を刺したら自分も死んでしまうそうです。

横山眞佐子

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