エッセイを読む

2022年01月

チュンスケ

 枕元の庭で「チュンチュンチュン」と鳴き声がし始める。ああもう7時かと時計を見ると、なかなか正確。

 10羽余りのスズメの集団が我が家を食堂にしているようで、「早く起きろ、ご飯くれ」と面白い。その集団の中にリーダーのようなとても大胆な1羽がいる。催促の時は必ず私と1メートルほどの近くまでやってきて、いかにも早く!と顔を見つめ、撒いたパンクズを一番につつき味見する。チュンスケと名付けてみた。昨日「そこどいて!」という感じでヒヨドリがやってきた。他のスズメは慌てて食堂から飛び去ったけど、チュンスケだけは果敢にも一番大きなパンクズを咥えてから退散した。

 スズメにも個性があるのだ。更にチュンスケは鏡開きで、砕いてザルに干していたお餅に飛び乗り、仲間に大きな声でチュンチュン鳴き始めた。あっという間にお餅をつまみ食いする沢山のスズメ達!

 大胆、好奇心旺盛、仲間思い。どう見てもリーダーの鑑。

 ところが昨日、玄関のドアにぶつかってはオロオロ、バタバタしているチュンスケを発見。多分、廊下に落ちていたパンクズを拾いにたまたま開いてたドアから室内に入ってしまったにちがいない。大胆は危険と隣り合わせ。自然の中だけではなく、人の生活に近寄ることは野生の生き物が獲得して来た能力を越える新しい場面に遭遇すると言うこと。壁や天井のある空間なんてきっと初めて。考えてみたら私達、この2年間今まで体験した事のなかったコロナウイルスとの向き合い方を模索してきた。

 科学で分析解明に努め、マスクでウイルス対策をし、ソーシャルディスタンスや、蔓延防止という社会的な決まりも作ってみた。世界中には78億の人間が生きていてそれぞれの暮らしている場所によって生活は全然違うはず。しかし肉眼では見えないウイルスはそんなことはお構いなしにおとなしくなったり仲間を増やしたり、どこかに飛んで行ったりちょっと姿を変えたりしながら脅威を撒き散らしている。

 でも危険に遭遇した時こそが学びのステップを上げる時!とチュンスケはバタバタと室内を飛び回りながら、全開したドアから入る風の匂いを感じ取ったのか、突然スイッと一直線に外に出て行った。2回目はないよね。

横山眞佐子

いままでのエッセイを見る

バックナンバー

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

ひろば通信には新刊の情報やこころがほっこりするエッセイが盛り沢山!