エッセイを読む

2023年07月

出来る!出来ない!

あえて友人と呼びたい中学3年生のK君が携帯から流れるジャズのリズムに合わせてドラムを叩く。目にも止まらない早い動きのスティックさばきに驚いていると、今度はフルートを吹きはじめた。美しく流れる音色。「すごい」と言っている私を見ながら次はピアノの上に手を置く。携帯からポップな歌声が流れ、鍵盤の上の両手が独創的な伴奏をつけ始める。
いやはや!K君は3年前の小学生時代には多分授業でのリコーダーくらいしか楽器は触っていなかったはず。なのに中学生になって吹奏楽部に入部した途端、音楽に目覚めた。しかも彼だけではなく、一緒に入部した数人の友人達も楽器を持つと身体が勝手に動き、みんなで楽しそうに演奏に浸ってしまうのだ。

生まれたばかりの赤ちゃんは、おっぱい飲んでねんねして時々泣いて、だけだったのに、気づけば何か握っていたり振り回したり、そのうち立ち上がったり・・・一刻一刻変わり続けて出来ることがどんどん増えていくのよね。

私だってやる気になれば無限に何でも出来るのではないかと思っていた青春時代だったけど、ある日気がつくと出来る出来ないではなく、自分がしたいかしたくないかで日々の生活を選択しはじめていた。高校時代、体操部に誘われて、身体は柔らかいけれど筋力もなく体育への苦手意識が強かったから、かたくお断りしたっけ!やれば出来るとか、努力すれば・・・とか言われても、好き嫌いが大きな要因になっていた。

それでもついこの間まで、普通のことはちょっと頑張れば出来ると思っていたら、「なんでペットボトルの蓋が開かないの!キツすぎない?」「なんで缶詰開けるプルタブが引っ張れないの〜?」それだけではなく、冷蔵庫から出した牛乳瓶を取り落とし大惨事になったり、高いところは得意だったのに、椅子に立って高いところの埃を取ろうとしたらグラッとしたり。危ない危ない!

新しいことが「なんでも」出来る時代から少しずつ「限られた」時代に。坂道をそろそろ下る!あれ?これ著名な本のタイトル!

でも下りながらまだまだ面白いこと見つけるよ。

『下り坂をそろそろと下る』平田オリザ著講談社現代新書

横山眞佐子

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