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2019年03月

ブラブラ

 いつも車ばかり。家から「こどもの広場」まで、歩いても10分もかからないのに車。近くの八百屋まで歩いて5分。でも車。キャベツ買ったら重いし・・と言い訳しながら。歩くのがどんなに大切か、毎日のように聞いているしわかってる。でも車。

 そんな私が今日は否応なく歩いている。訳あって今日は車がない。春の気配がいっぱいで、暖かい陽の光と朝の空気。桜の枝先が紅くなっている。ほおっておかれた夏みかんが早くなんとかしてくれ!と重そう。陽の当たる中学校の校門脇にスックと伸びているノゲシ。二輪の黄色い花がちょっと誇らしげ。春だなあ?と私も陽を浴びながら歩いていたら、一車線しかない狭い道の反対側に色の違う部分がある。見ればお年寄りも乳母車もそこを歩いてる。安全のために車歩分離ね!みんなエライ!でもそちらは日陰で寒い。せっかくの春の光を浴びて歩きたい。

 危険を避ける為に小さなことから大きなことまで、世の中のルールは時々??と思う事がある。解るけど、納得いかない。戦後すぐこの道を歩いて幼稚園に通い、帰りなんか友達とブラブラしながら子どもだけで帰った道。まあ車なんかほとんど走っていなかったけど。花を摘んだり、崖に登ったり、友達の家に寄り道したり。自由な子ども時代だった事を考えると、時が経ち、いろいろなことが便利になるかもしれないが、必ずしも前より良くなることばかりではない。今日より明日がより良い世界なんてなかなか実現不可能。安全を確保するために自由に道の左右を選べなくなる。ドア?ドアで、特に子どもは体験する事が減る。安全確認の為持たされたスマホで、子ども同士の直接対話が減る。一軒でなんでも揃うスーパーが出来て行きつけだった野菜屋さんや魚屋さんがなくなる。

 本棚の前で何冊も何冊も読み耽って、ハッと時計に気づいて慌てて一冊をレジに持って来るお客様。時を忘れ、いろんな世界をブラブラしハラハラした時間。今時はネットを見れば一瞬で何冊も確かめられて直ぐに家まで届けられる。でも、小さな町の本屋はそう早くはいかない。迷い、あちこち探索し、自分にとって居心地のいい一冊の本と出会う場所だ。

 陽が当たる場所、空き家になって破れた塀のそばで日向ぼっこしている猫、お化けみたいに木を覆うつる植物、それらを楽しみながら目的地到着!車の無いのもたまにはいいか!

横山眞佐子

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