エッセイを読む

2017年01月

凄い本

あっという間に新しい年がスピードアップ!マズイマズイ!少しは踏みとどまって流されまいとするのだけど、「情報過多」に目移りしてしまう。出版界も読書離れと言われながらも新しい本の数はあまり減らない。良いことでもあるけど、大切にしなくてはいけない既刊のものが忘れ去られて行く。

というわけで、先日県内の保育園で絵本「だいふくもち」(田島征三作福音館書店)を読んだ。3歳から6歳まで。年齢の幅が広いにも関わらず皆本に釘づけに。人は良いけど怠け者のごさくの家の床下から声がして、めくってみると小さなしろい大福餅が。これが「もうかれこれ300年なんもくうちょらん。はらがひついてしにそう。あずきおおせ!」と高知弁でねだる。大福餅の頼みに、自分の食べ物もないのに、隣から小豆を借りて食べさせてやる。腹一杯小豆を食べた大福餅は小さい餅を生み、初めは寝転がって自分で食べていたがちょっと商売気をおこしそれからは守銭奴のごさくに変わって行く。結末にドキリと。田島さんの力のある生き生きした絵と、短いながら高知弁を使ったユーモアのある文がグイグイとこちらに迫ってくる。ウケ狙いも、押し付けがましい下心もない。ただただ、人間というものの愛おしさとあっという間に自分を見失う弱さとが描かれている。始め聞きなれない言葉と大福餅が小さな餅を生むユーモラスな絵に目をうばわれていたこどもたちが次第にピーンと張り詰めた眼差しになっていった。最後の扉を閉めた時ホッと肩から力を抜いて口々に「怖かった?!」

お化けや幽霊の怖さではなく、一歩間違うと自分の存在が無くなる人間の心の怖さを一冊絵本から読み取れるこども力と絵本作家の凄さに心を打たれ、改めて新しい本に加えて大切に読み継がれて欲しい本を紹介し続けて行く一年にしたいと・・。

今年もよろしくお願いします。

横山眞佐子

いままでのエッセイを見る

バックナンバー

毎月のエッセイは
ひろば通信に掲載されています

ひろば通信には新刊の情報やこころがほっこりするエッセイが盛り沢山!