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2017年11月

クスの森

 山口県下関市豊浦町の川棚地区に大きな楠の木があり「クスの森」と呼ばれています。しかしこの森、一本の楠の巨木で出来ています。幹の途中から大枝が分かれ、こんもりした森のよう。樹齢1000年以上。楠は昔は樟脳と言われ、虫除けにタンスに入れたり、木を使って家具にしたり。枝も葉も爽やかで、キリッとした香りで、モヤモヤした悪いものが消えていくような気持ちになります。私の一番好きな木。国指定の天然記念物です。

 ところが、先日からこの木が大変なことになっていると、新聞にも取り上げられ、地元の人たちもなんとかしなくてはと悩んでいます。

 いつも緑の大きな枝の葉が無くなり、枯れ枝が目立って来ています。「大楠の枝から枝へ青あらし」と句を詠んだ種田山頭火の大楠の青は葉の青(緑)ではなく、冬空の青が枯れた枝の間からクッキリ見えています。

 大人になっても忘れられない絵本「おおきなきがほしい」(佐藤さとる)。どこまでも伸びる大きな木にハシゴをかけ、小さな家を作り、台所やベットがあり、リスや小鳥と遠くの街並みを眺める。そんな木が欲しい。今は想像。でも家の前に一本の小さな木を植えます。いつか大きな木になるように。この木が育つには、地上だけではなく、地下で真っ直ぐ伸びたり横に生え広がったり、太いのや、毛のようなのや、様々なやり方で植物を支え、栄養を吸い上げ、枝の先までを育てている根が大切なのです。大きな木に育つように少年は根に水をやります。

 「エゾマツ」(神沢利子)北海道に育つ大きな樹林。空に伸び枝を広げますが、そのため地上には太陽もあまり届かず、落ち葉が降り積もり種は地上に落ちても根を降ろす土壌がなく、なかなか育ちません。しかし、新しい芽が一列に並んでいるところが見えます。よく見ると、朽ちた倒木が新しい命の畑になって根を伸ばす手助けをしています。エゾマツにとって朽ちることは死ではなく再生、という希望の本。

 一つの命には限りがあるとわかっていても、共に地上にいる私たち人間にも、今何か手助けができるのではないかと、ジタバタしたいのです。自分の日常の傍にある木について、ちょっと目をとめてください。1000年の間に人間の都合で変えて来た環境を振り返りながら。

横山眞佐子

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