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2022年04月

ポシェット

 友人から小さな手作りのポシェットをもらって以来、愛用しています。肩からかけ、その中には携帯、メモ、ペン、名刺、何でもかんでも入れられて、手のひらサイズなのに本当に便利。しかしちょっと油断すると、もらった飴ちゃん、レシート、使いかけのティッシュ、小銭、小さなカイロ!!使わない物がどんどん詰め込まれていきます。捨てられない、整理が苦手な私の悪い癖。今本当に必要な物だけを持っていれば十分だとわかっているけど、人間って物を増やすのが好きね。これを「欲」というのかな。

 先日病院に行った時、忙しく動き回っている看護師さん達、あの人もこの人も私のように斜め掛けのバックの紐が見えました。私と同じで色んな物を持ち歩いているのか!と見ていたら、何と後ろに回っているバックの中には重そうな消毒液スプレー容器が入っていました。少し前には白衣のポケットにメモ帳と筆記具くらいだったのに。この数年間で必要な持ち物が変わったのですね。これは他者のために必要。

 小さなポシェットの整理をしているうちに、冬物の洋服やそこいらにだんだん溜まっていく様々な物にも目が行き、置いておくのか、捨てるのか決断をしなくてはならなくなってきます。捨てればゴミになると考えるとまたためらいが生まれます。だって身の回りにいつもある物は頻繁に使うわけではないのに、毎日目にしていて安心できる風景のようにもなっているのです。

 その時、テレビで破壊された街の中で呆然と立っているお年寄りを見ました。長い年月、共に在ったたくさんの物も家もなくなり、生きてきた風景が一瞬で失われたのです。避難するために持てるだけの物を持って子どもを乳母車に乗せて歩く母親も目にしました。大切な物を諦めなくてはならなかったでしょう。平和ボケしている私の捨てるとか捨てないとかの問題ではありません。一番大切なのは物ではなく、今ここにある命。生きているということです。戦争のある社会がいいわけありません。誰一人他者を踏みにじることなく、ずっしり重い平和をポシェットに入れておきたいのです。

横山眞佐子

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