エッセイを読む

2020年01月

ちょっぴり

 「それ、私です」と立ち上がった方がいる。先日、福岡県の図書館での小さな研修会で、私が写真パネルの解説をしている時だった。

 20数年前に始めた「選書会」の写真パネル。学校の図書室に入れる為の本を利用者である子ども達に選んでもらったらどうか、というアイデアから始まった。読書は大切とわかっているけれど、子どもと本の出会い方には、なかなか有効なものがない。「読み聞かせ」だけでは読んでもらった満足感で終わり、本を山積みにしても自分でページを開くのはハードルが高い!そこで、「ブックトーク」をすることにした。怖い話、笑える話、謎がいっぱいの話など、次を読みたくなる本のサワリを語る。「それで?」と、身を乗り出した途端に「続きは自分で・・^_^」と言われると「え~!その次が知りたいのに~」となる。そんな子ども達の笑ったり、考え込んだり、怖がったりの一瞬の表情にシャッターを押し続けてくれたカメラマンの吉岡一生さん。

 研修会と同時進行で、それらの写真のパネル展もひらかれていたが、すでに10数年前の写真なので子ども達はとっくに成人に近くなっているはず。

 その一枚に3~4年生のグループの一人の女の子が面白くてたまらないという笑顔で、後ろの先生を振り返り、そしてその子と同じ笑顔で本を楽しむ先生がいる。教師と生徒と言う関係を取り払った二人が交わす眼差しは信頼の深さを物語る。「素晴らしい笑顔が交わせる大人と子どもの間には立場や職業なんか関係ない美しい幸せがある」と言った時の出来事だ。

 女性は「その子は〇〇ちゃんです。元気かな~」ちょっとはにかみ涙ぐんだ。10数年の変化は子どもにも大人にも。住まいも仕事も環境も変わっても共に過ごした時間は思い出として深く心に残る。先生も1年間心を砕いて見守った生徒達を送り出す。まるで実家を離れる子どもを見送る両親と同じではないか。

 我が家も子どもが孫を連れて帰って来て、ちょっと心配そうに私のすることを見守る。立場が逆転したのはいつ頃だったのか。でも新年。ちょっぴり前に進もう。

横山眞佐子

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