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2023年03月

忘れてはいけない

啓蟄という言葉を聞いた途端に春が目覚めた!庭のレンガの間からダンゴムシが這い出てきているし、ちょっと暖かいので久しぶりに窓を開けていたら小さな虫が入ってくるし、掃除していると点みたいなクモの子が慌てて逃げていくし。人間は自然と共存しているのだと思いながらも、実は自然の営みの中でかろうじて生かしてもらっているのだと思ったのが、12年前の3月11日、東日本大震災の時、呆然とテレビの映像を見ているしかできなかった私。誰も予測できない事だった。大切な人も場所も失ってしまわれた人たちの12年を思うと、この季節の暖かさや光をただ喜んでいられない気持ちになるのです。

ただ、あの時下関の仲間達で何ができるかと考え、もしかしたら一冊の本が絆創膏のようにちょっとでも気持ちを慰めてくれないかと「BOOKAIDJAPAN」という活動をしました。自分の大切な本を提供する人、それを買う人、売る人、あっという間に人と本が集まり、大人も子どもも出来ることを夢中でしました。二日間で古本は売れ、そのお金で新しい本をみんなで選んで、被災地の小学校に届けることにしました。最後はその本、一冊一冊に近くの小学校の子ども達がメッセージを書いたしおりを挟みました。それらの本を石巻市の鹿妻小学校に届けたあと、私も訪問させてもらいました。

運動場のギリギリまで津波がきたという小学校で、校長先生が窓の外を通る子ども達を見ながらおっしゃいました。「この子達の笑い声が聞けるから、私達大人も頑張れるのです」と。体育館にはまだ避難の方達がおられ、子どもも先生も父兄も悲しみを抱えながらの日々だったのです。後日、本を抱えた笑顔の子供達の写真とメッセージを送ってくださいました。

5年2組のT.Sさん。「遠いところから本をありがとうございます。復興に向けて、私たちがんばります。」
皆さんもう二十歳をとうに過ぎた年齢でしょうか。生きているということの重さを私よりずっとずっと知っている人たちの作る社会は、大自然とどう向き合っていくのでしょうか。

残念なことにしおりを作ってくれた下関の王江小学校は2022年3月に閉校になりました。

横山眞佐子

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